最も長くマリベリの歴史を知っているのは音楽作品です。
『THE OMEN』に収録された楽曲の中には、そんな中でもマリベリの誕生を決定づけた作品、即ち処女作も含まれています。
『THE OMEN』は、マリベリがどんな歴史を歩んで来たか、これからどんな歴史を歩んでいくのかを、音楽を通して描いた作品でもあるのです。
こんばんは、YUKISHIBAです。
さぁいよいよ完結編。
今回は楽曲にまつわる解説をしていきます。
【理想はフルコース料理】選曲・曲順決定の裏側
最も気を付けたことは「ただの寄せ集めにならないこと」だと思います。
「この日程までに出来上がった曲とりあえず集めました!」で終わっちゃわないことは、恐らく『THE OMEN』の存在価値を最も左右する懸案事項でした。
唯、そもそも『THE OMEN』に間に合わせることの出来る曲の数自体がかなり限られているという状況下でそれを叶えるため工夫できることは「流れ」だと考えました。
理想はフルコース料理。
同じ料理でも、食べる順番や食べ合わせによって味に対する印象は変わります。
フルコースといえばざっくりいうと
サラダとスパークリングワイン→白身魚と白ワイン→肉料理と赤ワイン→デザート
といった順番ですが、これもただの慣習とかではなく「全ての料理を美味しく食べれるように」ちゃんと考えた結果なのです。
『THE OMEN』の曲順を決める時も、①全ての曲を②聴き飽き・聴き疲れすることなく③最大限味わえるように考えました。
順番だけでは足りなかったので、前奏曲を合わせ3曲の幕間曲を用意。
それこそフルコース料理のように、1曲目から最後まで通しで聴いてもそれぞれを存分に味わえるよう、最大限考えて設計しました。
楽曲に隠された秘密
第1部でもチラッと言った通り、前奏曲や幕間曲は曲名をどこにも表記しないなど、隠された存在でした。
せっかくなので、ここではその「隠された3曲」についてお話ししていきます。
いやメインは!?と思うかもしれませんが、実はサブ曲を紐解くことで、普段は振れることの出来ない「マリベリの謎」に迫ることが出来るのです。
サブとはいえ、かけた手間はメインの曲と殆ど変わりません。
それどころか、サブだけに「裏」も深いんですよ…!
①THE OMEN -Prologue-
ブックレットには日本語で書き、実際には英詞で歌い(演説し)ました。
日本語と英語、それぞれの特性を活かすことで、より多様なニュアンス・語感が得られるようになっています。
~英詞~
We're here to reach the sole destination
True freedom, to love, and liberate our soul
Many of flowers grow on the earth are plucked before flowering
We defy this fate
We hear soul buried alive in the dark scream
We know who buried them
And we know they're still asleep inside a pen
Never forget that
The God doesn't build unescapable jail
The God doesn't create, nor have power over humans
The God doesn't require us to obey, doesn't glorify any conquests
The God just worship nature, and believe us humans!
We keep progress until every soul in everywhere find own way each destinations
Thou Shalt Be Free!
(日本語版は是非パッケージ版で確かめてくだされ!)
内容を見てみると、ここでも前回触れてきたようにヤーヴェが偽りの神であることを説くと同時に、その強大な力に屈しないことを誓うものになっています。
実はこの曲、ある仕掛けがあるんですが、オーナー様で気付いた方はいるでしょうか…。
ヒントはストリングスのパート。
そう、実はこの曲、『THE OMEN』に収録されている曲で構成されているのです。
どういうことかと言いますと、『THE OMEN』収録曲のそれぞれ一部分を抜粋し、メドレーのように繋ぎ合わせつつストリングス仕様にアレンジを加えて出来ています。
サンホラ・リンホラで度々みられる手法ですね笑
順番は…文章で言っても伝わらない感があるのでまた日を改めてとしましょう。
ラスト転調後の部分がSLY GARNET DOLLのラスサビなのはわかりやすいと思いますが、それより前の部分もちゃんと収録曲メドレーなんですよ…!
あ、但しCount the 4だけは除外しています。
②雨だれ(Instrumental)
正確に言うとこれは『THE OMEN』のために作られた曲ではありません。
作品自体はかなり前に作ったもので、第1部でも触れた幻のミニアルバム『ARISING』にも収録されました。
もっというなら、最初はマリベリ名義ではなくYUKISHIBA個人名義で作った作品でした。
一時期起きたムーブメント(?)として、「ユキシバもマリベリの外で活動してみる」という試みがありました。
震源はマメウサ。
マリベリとしてではない、YUKISHIBAとしての活動の展開。
今はだいぶ面影ありませんが、実際これが結構本格的で、YUKISHIBA個人のWebSiteもあったほどです。
そんなYUKISHIBA印の活動のメインとして挑戦したのがBGM制作。
マリベリのストーリーとは関係ない、完全ストーリーフリー(少なくともそのつもり)で作ったBGMをYouTubeで公開してみたり、Audiostockというサービスに登録してDL販売もしたことがあります。(多分探したら今でも買えます)
その名残でYouTubeは今でもユキシバ個人チャンネルとマリベリのチャンネルで分かれており、カバー曲はユキシバ個人、オリジナル作品のみをマリベリのチャンネルに上げています。
何を隠そう、この時に作られた曲の一つが『雨だれ』なのです…!
マリベリのストーリーと関係なく作ったはずの曲がなぜ収録されたか?について説明するにあたって先にお話ししておきたいのが、
このユキシバ個人名義での活動、今ではほっとんどやっていません。
ユキシバ個人での作品とマリベリオリジナル作品。分けなきゃいけないほどこの二つは明確に違わないということが活動しているうちにわかったからです。
そもそもジャンル的な意味で音楽性が殆ど変わらない。いや、変わらないというより、「マリベリ音楽」が色んな音楽性を受け入れてしまうのです。
僕は最初大きな思い違いをしていました。マリベリはコンテンツ内容から厳密に分けることで一層魅力を増していくと思っていたのです。
しかし実際のマリベリは想像するよりも遥かに寛容。探検すればした分だけ領土拡大する、色んな領域で色んなものを吸収することでより強くなる存在。
確固たる軸はある。ただし軸があるが故に裾野は広い。
きっと僕が技術を習得しさえすれば、いずれはマリベリ産テクノポップやヒップホップだって誕生するのかもしれません。
結論、活動を分けてもただ面倒くさいだけだったのでYUKISHIBA個人としてのプラットフォームは廃れていったんですね笑
『雨だれ』も、最初はマリベリとは無関係な作品だと思って作っていましたが、
それ自体が僕の思い違いだったのかもしれません。
何を言っているかわからないかもしれませんが、僕にも何故こうなったのかは完全にはわかりません。
実は、元々マリベリの本筋の物語と関係ない目的で作られた曲が「後からマリベリ楽曲として正式に認められた曲」という例は幾つかあります。
『THE OMEN』収録曲だけでも『New Horizon Anthem』、それから『Count the 4』もかなりグレーゾーンです。
兎にも角にも、マリベリに関してはわかっている部分よりわかっていない部分の方が多いくらいですから、
そのうちユキシバ名義で作った他のBGMもマリベリオリジナル作品に収録されるかもしれないし、されないかもしれません。
いつかはマリベリに関係ない作品とある作品を完全に見分ける/作り分ける方法が確立されるかもしれませんし、それが不可能であることが証明される日が来るかもしれません。
そこはもう学問の進歩を見守るような気持ちでいてくれると幸いです。
ただ一つ言えるのは、『THE OMEN』において、『SLY GARNET DOLL』、『Alice In Heavy Haze』と続いてきて『doze』に繋げるためには、間に『雨だれ』のような曲が必要だったということです。
③101 154 154 40 164 157 157 40 154 141 164 145
シークレット音源であるこちらの曲。
いや、曲と言って良いのかこれは…?
ひたすら不気味というか、夜に一人で聴くのはちょっと気が引ける感じのトラックをラスト1歩手前に挟んだわけです。
この記事を書くために改めて歌詞を確認しようとしたところ、歌詞をメモした紙が見当たらず、真夜中の照明を暗くした部屋で実際に聞きながら一語一語聴きとる羽目になりました…
オーナー様で、夜暗い部屋で一人で聴ける人います??←
これ、ラストの曲『Count the 4』の前に挟まっていることが重要なんです。
『UNWITCH MAGIC!』が終わって『Count the 4』までの間の幕間曲。場面転換であり次の曲への導入も兼ねたトラックなのです。
このトラックは、曲名も歌詞もそれぞれ暗号を用いています。
まずは曲名から解読していきましょう。
アルファベットを3桁の数字に変換する暗号があります。
二桁の数字は単語間のスペース。
そう思って見ると、同じ数字が2つ続いてたり、なんか言葉っぽく見えてきませんか?
この暗号と解くと
ALL TOO LATE
全て手遅れ
となります。
続いて歌詞を見ていきましょう。
本編は色んな雑音が混ざって肝心の単語もギリギリ聴きとれるかどうか…という感じですね。
Delta Anger November George Echo Revelation Sada Oscar Sierra
Iris Tiger Irma Siren Divine Ilse River Equality Fountain Owl River Youth Oscar Ultra Tyrant Occupation Even Villain Aileen Cluster Ultra Anima Throne Echo Bathory Even Circle Avoid Under Tiger Iris Owl Nose Scream Hierophant Era Irma Sierra Noble Orient Trouble Honey Universe Myra Aileen Noble
4154081 Nuclear 1227241 Encore
こうしてみると脈絡のない単語の羅列に見えますが、実はこれ比較的シンプルな暗号です。
単語のイニシャルを並べることで元の文を復元できます。
正確には暗号ではなく、NATOフォネティックコードという通話表です。
無線通話などの場面で、重要な文字列を正確に伝えるためにNATOが開発したもので、例えばDはDelta、NはNovember、BはBravoというように、アルファベットと単語が1対1で対応しています。
これは同じアルファベットを使うのに発音が違う欧米諸国間でのやり取りや、有事の際のやり取りにおける聞き間違いを防止できるというメリットがあります。
本来は一文字につき一単語で統一されていますが、ここでは単語を複数対応させたり、ところどころにマリオネットの名前を織り込んだりしてアレンジを加えています。
さて、上の単語の羅列をこのルールで復元すると…
DANGER
IT IS DIRE FOR YOU TO EVACUATE
BE CAUTION
SHE IS NOT HUMAN
4154081N 1227241E
危険
至急避難せよ
注意せよ
彼女は人間ではない
最後の数字列はとある場所の座標を表しています。
さて、この暗号が終わった後、何者かが歩き去っていく音だけが収録されて終わりとなります。
この「緊急無線」の中で言及されている「彼女」の正体は…
MALICE BERRYのリードギターにして『Count the 4』の主人公・イルマです。
そして先の座標は、Count the 4の絵に描かれた地点を示しています。
その場所とは…
バチカン市国、サンピエトロ広場。
言わずと知れた、カトリックの総本山です。
ヤーヴェの僕に成り下がった人間たちの総本山たるこの場所に、ごうごうと紅く燃える月、MALICE BERRYのトレードマークが大きく描かれた垂れ幕、上空では戦闘機が勝利の飛翔、目の前には”美しき獣”と化したイルマ…
バチカンは陥落してしまったのでしょうか?MALICE BERRYの手によって?
④Count the 4
ついでです。最後にこの曲について解説しましょう。
この曲はマリベリの中でも特殊で、マリオネット(楽団員)のリードギター・イルマの半生を題材にした楽曲です。
(詳しい生い立ちはマリベリ公式WebSiteやこちらの記事にまとまっています)
美しく華のある少女に育ち、将来は美貌を活かし女優になることを嘱望されたイルマは、自身の内に飼う”獣”を解放する機会を窺っていました。
周囲から外見でラベリングをされるたび、抑圧されるたび、その”獣”は暴走を求める。
イルマが望んだのは唯、恐怖の象徴であること。
自分が姿を現すだけで戦慄するような存在であること。
暴虐の限りを尽くすこと。
ただそれだけがイルマにとっての自由。
例えいつか裁かれるとしても。
—狂おしい程最低な自由さ こんな世界でしか感じられない
受け入れてやるわ 私の全てを—
イルマの運命は、まさにこの一文に集約されていると言えるでしょう。
この曲は絵だけを見るとあたかもMALICE BERRYがバチカンを攻め落とす宗教戦争の一場面を描いているように見えますが、僕の考えではこの絵はそういう意味ではありません。
これは、イルマ自身が他人の目にどう映りたいかを象徴的に描いた絵だと考えています。
バチカンに住むことの出来る人間はほとんどが位の高い聖職者です。
もしある日突然、彼らの目の前でバチカンが陥落し・イルマのような存在に蹂躙されたら、それは一体どれほどの恐怖でしょう…。
余談ですが、『Count the 4』の絵は専属絵師・マメウサを最も苦しめた絵の一つと言えます。
その大きな理由が構図。
馬乗りになって自分の胸ぐらを掴んでくる人間の体、上から見下ろしてくる顏、狂気的な表情、上空を飛ぶ飛行機など…
ここまでパースや空間認識能力をゴリゴリに試してくる構図は、当時のマリベリではほぼ前例が無かったように思います。
マリベリにおいて前例がないだけでなく、マメウサの経験にもおおよそ含まれない要素のオンパレードだったわけだから、それはそれは苦戦をするはずです。
こちらからの修正依頼も特に多かった絵で、今だから思い出話にできるけど当時は殺伐としてましたね…
ただ、マメウサにとっても『Count the 4』が一つの新境地・転機だったであろうことは、僕から見ても感じられます。
『Count the 4』以降、『Cherroid』のようにアングルやパースへの意識が求められる絵、『蛇と鈴蘭』のように有機的な表情が求められる絵などもラインナップに登場するようになったわけですから。
音楽も絵もそう。時に痛みを伴いながら壁を越え、その度に新たな境地を得ていく。
それは創立当初から今に至るまで絶えず続いていること。
『THE OMEN』もまたその壁の一つであり、マリベリが歩んで来た道とこれから歩む新境地を一つの箱に凝縮した存在なのです。
『THE OMEN』制作秘話、3部に渡って話せるだけ話してみましたが、いかがでしたでしょうか。
もしこういうのも聞いてみたい!などあったら…第4部もあるかもしれませんよ…(ほんとに
『THE OMEN』オーナー様、あるいはそれ以外の方にも、マリベリが作品をいかに特別な存在としていて、いかにじっくり長く愉しんでほしいかが伝わったなら幸いです。
汝、自由で在れ✠
YUKISHIBA
第2部・イラスト編
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